| 2008.12.6
新潟・洋ナシ「ルレクチェ」
「幻の果実」とろける食感
これから年末年始にかけて出荷時期を迎える「ルレクチェ」は西洋ナシの中でも最高級品といわれる。青い色のまま十月に収穫され、約四十日間の追熟を経てようやく食べごろになる。八割以上が新潟県で生産され、さらにそのほとんどが県内で消費されるという「幻の果実」の産地を訪ねた。
新潟県のほぼ中央にある三条市の井戸場。蛇行する信濃川の河川敷を中心とする新潟県は日本のナシの産地として約三百年の歴史を持つ。信濃川が運ぶ肥よくな沖積土壌に加え、地下水も深いことから果樹が広く深く根を張る。百年ほど前からこの地の多くの果樹園が日本のナシに加えルレクチェも栽培してきた。
高い研究の意欲
渡辺果樹園は農薬の使用量をできるだけ抑え、化学肥料も使わずルレクチェを栽培する数少ない農家。代表の渡辺康弘さん(44)の父、一郎さん(66)は新取の精神あふれる生産者だ。
園内に新しい品種のナシやブドウの果樹を数多く植えて、常に研究を繰り返してきた。
康弘さんは東京の農業者大学校を卒業後、帰郷すると、父から突然言い渡された。「うちで一番いい木をお前に預けるから、心して覚えてこい」。疑問があれば、近くで一流と呼ばれる生産者に相談にいき、数カ月に一度は全国の有名農家のもとに研修に出かけ、果実づくりを学んだ。
親子が栽培方法を巡り激しく衝突したこともあった。ルレクチェの樹木の生育方法には互いにこだわりがある。「オレの木に触るな」という言葉が出る。かつてそうした状態が十年ほど続いたという。
栽培技術を覚えたばかりの康弘さんは早く認めてもらいたい焦りから、果樹に化学肥料をたっぷり与えた。立派な実が育ったが、一口食べてみて違うと思った。マスクをせず農薬を散布した夜、酒を飲んだらひどい二日酔いに。「食べ物にすることじゃない」と思った。
高級果実には虫食いはご法度だけに、農薬を減らして栽培するには勇気がいった。だが、微生物発酵液や海藻エキスなど天然成分由来の代替品を活用することで減農薬の工夫に努めている。
ルレクチェの販売は難しい。収穫後すぐに出荷できず、追熟の時間が必要になるからだ。収穫時には青くてガリガリでとても食べられないが、約四十日の追熟を経ると美しい明るい黄色に変わる。康弘さんは生産者の手による追熟、直接発送にこだわる。二キロ(五〜六玉)入りで自家用なら三千八百円、贈答用なら四千六百円(ともに送料込み)という価格だ。
食べごろの実を少しいただいた。とろけるような食感、舌で軽く押しただけでジュワッと果汁があふれる。豊熟な甘い香りにもかかわらず、後味は驚くほどさっぱりしている。
新潟の十一月の最高気温は10〜15度前後、湿度が70〜80%で、ルレクチェの追熟にふさわしい環境だ。他県では人工的に環境をつくらねばならなかった。
春先をイメージ
康弘さんは一部の果実を蔵の中で追熟させる。素焼きの瓦、木の柱、土の壁、石の土台という組み合わせ、この安定した環境が追熟に向くという。他の倉庫では一日三回、モーツァルトの曲を聴かせるようにしてから、追熟が遅れて困るということがなくなった。「空気の振動がいいようです」
ルレクチェは別名「親不孝ナシ」と呼ばれるほど栽培が難しい。実がならない事態を避けるため一年中、剪定(せんてい)が欠かせない。春、夏にはのびてくる芽をハサミで切り、冬には枝を整理する。出荷作業に追われると、剪定は雪の時期に重なる。
新潟の冬は晴天の日が少ない。「春先にはここから芽が出て…とイメージして切る。頭の中は春なんです」。雪の中の剪定は腕の見せ所で、今でも競争だと話す康弘さん。かつて衝突した父と子が互いを尊重し、生まれたきずなが果実をさらにおいしくはぐくんでいるようだ。
(ライター 永峰美佳)
豊かな香り
様々な種類がある西洋ナシで有名なのはラ・フランス。生産量は全体の六割以上を占め、ルレクチェは五%前後にすぎない。
ルレクチェは一九世紀、二品種をかけ合わせ作られた。おいしくて大きな実がなると期待されたが、栽培が不安定で一定の品質を確保できず、フランスでは現在ほとんど栽培していないという。
新潟県にルレクチェが入ったのは約百年前。ロシア向けの輸入品目として、フランスから苗木を取り寄せて導入された。栽培に適していた新潟県で根付き、長野県や山梨県でも栽培されている。
他の西洋ナシに比べてとろみがあり、果肉が軟らかい。複雑に香りの成分が混ざり合い揮発性が高い。果実が置いてあるだけで、豊かな香りがするのはそのためだ。青色から黄色にはっきり変わり食べごろがわかりやすい。
★おすすめの食べ方「キャラメルソテー載せトースト」
フライパンで砂糖を茶褐色になるまで焦がし、バターとルレクチェをさっとからめる。
ブランデーを加え、軽くトーストしたパンに乗せる。 |